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機関誌THE YMCA

THE YMCAは日本YMCA同盟が発行している機関誌です

<最新号のオピニオン>

分離壁に囲まれた町 パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で活動するYMCA

 ガザから約70km。「パレスチナ自治区ヨルダン川西岸」は、土地の約6割をイスラエルの支配下に置かれ、街中が多数の「分離壁」で分断されている地区です。 東エルサレムYMCAは1948年、パレスチナ難民支援のために設立され、今も紛争で負傷した青少年のリハビリや職業訓練、女性の自立支援のほか、水泳やキャンプなどのプログラムを提供して青少年の育成に取り組んでおり、日本のYMCAとも長く交流を続けています。近況を尋ねました。(まとめ・編集部)


■■ 東エルサレムYMCA総主事 ピーター・ナシル ■■

 今、ガザで起きている殺りくと破壊は、エルサレムとヨルダン川西岸地区に住むすべてのパレスチナ人にとっての恐怖です。私たちは長く紛争を経験してきましたが、これほどまでに悲惨な日々はありませんでした。ガザとは物理的な往来は禁じられていますが、私たちの心の中にはガザがあります。これまでに殺された数万の人びとは私たちと同じパレスチナ人です。一人ひとりの人生と夢が打ち砕かれるたびに、私たちの心も粉々に砕け散る思いです。

 私たちの住むエルサレムとヨルダン川西岸地区内では爆撃はないものの、イスラエル軍によって移動が制限され、監視され、暴力が激しくなっています。女性や子どもを含む数千人が逮捕され、死者数も増えています。こうした状況は、YMCAの職員やプログラムにも少なからぬ影響を及ぼしていますが、同時にYMCAの働きはこれまで以上に重要になっています。子どもや若者は、民族のレッテルや政治的圧力から解放され、自由に過ごせる安全な場所を必要としています。ですからどんな恐怖と不安の中にあってもYMCAは、情熱を持って強く立ち上がり、光を見失うことなく、より良い未来を創りだすために歩み続けるしかないのです。

 「光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった。」(ヨハネによる福音書1:5)

 私たちが運営している職業訓練校には、来年も多数の青少年が入学を希望しています。紛争で負傷した青年や障がいのある方のためのリハビリテーションプログラムも、この混乱の中でニーズが増えています。私たちは、イスラエル軍による逮捕・拘束から釈放された後のトラウマを抱えた子どもたちの支援もしていますが、悲しいことに、拘留されている子どもの数は増え続けています。また長引く戦争によって家計が悪化し、救済を必要とする家庭が増えたため今年1月には、47,000本のオリーブの木を植え、750以上の農家の土地と生計を維持できるように支援しました。

 またエルサレム、ベツレヘム、ラマラの3カ所で運営しているコミュニティーセンターでは、いずれもスポーツ等のプログラムを継続しており、夏にはキャンプや水泳教室も予定しています。周辺の治安状況に留意する必要はありますが、YMCAの会館内は安全です。子どもたちを恐怖や憎しみから守り、できる限り普通の成長に近づけるように養育することが私たちの義務です。子どもたちとその家族が伸び伸びとした夏を過ごせるよう、参加費を下げて門戸を広げていく予定です。

 パレスチナの子どもたちは、水泳やサッカー、バスケットボール、空手、芸術、音楽の勉強が大好きです。彼らは世界の子どもたちと同様に、子どもとしての権利が守られなければなりません。子どもたちまでもが紛争によって憎しみを募らせるのではなく、自分自身や家族、地域社会のためにより良いことをする意欲を持てるように。私たちYMCAは子どもに必要な成長の機会を提供し、子どもらしく過ごせるよう願って、できる限りの努力をしています。そして私たち自身もまた、こうした活動の中で子どもたちの笑顔を見るときにこそ、この苦境を乗り越えられるという希望を感じるのです。

「暗闇に住む民は大きな光を見、死の陰の地に住む者に光が射し込んだ。」(マタイによる福音書4:16)


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