機関誌THE YMCA
THE YMCAは日本YMCA同盟が発行している機関誌です
<OPINION>「戦争はしない ぼくたちはトモダチだ」
“幸せなら手をたたこう”~名曲誕生の物語~
早稲田大学名誉教授 木村 利人さん
私は1959年、大学院生の時にYMCAの農村復興ワークキャンプのためフィリピンに行きました。フィリピンは太平洋戦争中、日本軍の侵略で100万人もが犠牲になった国です。戦後14年の当時はまだ、虐殺の跡地などもそのままで、家族を失った悲しみを抱えた人も多く、日本への憎しみが村中に渦巻いていました。
しかし私が何よりショックだったのは、自分がそれを知らなかったという事実でした。それまで私は、日本はアジア諸国を欧米の植民地支配から解放するために戦っていると教えられていたのです。まさか子どもや女性も関係なく殺した虐殺の加害者だったとは、考えたこともありませんでした。
それでも私たちは1カ月間、村の青年と一緒にトイレ作りなど労働奉仕を続けました。その中で親しくなったラルフ君という青年がある時、「リヒト、ぼくたちは平和な未来を作っていこう。二度と武器をとって戦わないと誓おう。ぼくたちはトモダチだ」と言ったのです。ラルフ君は父親を日本兵に殺された青年でした。にもかかわらず「赦す」と言ってくれたのです。その日に一緒に読んだ聖書が「すべての民よ、手をたたこう」(詩編47)でした。私も平和を誓い、日本の憲法を紹介したところ、村の人たちも喜んで「態度に示して」(リビング バイブル:エペソ5-8)親切にしてくれるようになったのです。
私は帰国後この経験を詩にして、現地の小学生が歌っていたスペイン民謡のメロディーにのせて歌にした。それが『幸せなら手をたたこう』です。
YMCAは今も、多数の国際交流活動をしています。ぜひこれからも、青年たちが歴史をよく知り、理解し合って仲間となり、平和をめざして世界とつながっていく。そんな活動を続けてほしいと思います。世界は今、かつてないほどに緊張が高まっています。ウクライナ、ガザ、イランなど、力づくの政治が横行し、軍備増強の動きが広まっています。日本でも、平和憲法を変えて武力を強化しようという人たちがいます。が、これは非常に危険なことです。
私は1970年から2年間、ベトナムの大学で教えていた時に、枯葉剤の悲劇を目の当たりにしました。遺伝子を破壊して子孫まで滅ぼす、ジェノサイドです。私はこの時、科学技術を正しく規制して命を守る必要を痛感し、「バイオエシックス(生命倫理)」を提唱しました。今は当時よりはるかに技術が進歩しましたから、本気で攻撃されたら、迎撃しても限界があります。武力はもはや解決にならないのです。仮想敵国を作って武力強化するよりも、まずは攻撃されないよう、対話と協調を徹底して「敵」を作らないことが最強の道です。
戦時中私たちは「鬼畜米英」と教えこまれ、「敵を殺せ」と言われてきました。けれども今思えば本当の敵は、ありもしない架空の敵を作り出してあおった、ほんのひとにぎりの大人たちだったのではないか⸺䔃。私はその後アメリカに住みましたが、愛すべき「トモダチ」しかいませんでした。
私は戦後、『あたらしい憲法のはなし』(文部省発行1947年)を習った時の感動を、今も鮮明に覚えています。武力を捨て、戦争はしない。「世界中の国がよい友だちになってくれるようにすれば、日本の国は、さかえてゆけるのです」。戦争で苦しんだ私たちは、この憲法を心の底から喜び、そして誇らしく思ったのです。
YMCAは今、「みつかる。つながる。よくなっていく。」をスローガンに掲げていますが、ぜひ過去の歴史を未来の平和へとつなげてほしいと思います。悲惨な戦争の歴史と現状に学びつつ、何があっても平和的解決をあきらめない、「平和を作る人」を育ててほしいと切に願っています。 (まとめ・編集部)
【Profile】木村利人(きむら・りひと)
1934年生まれ。バイオエシックス(生命倫理)提唱者/『幸せなら手をたたこう』作詞者/東京YMCAアドバイザー
