機関誌THE YMCA
THE YMCAは日本YMCA同盟が発行している機関誌です
<OPINION>「こどもがまんなか、あたりまえ」 日本YMCA同盟総主事 太田直宏
日本語の「権利」に使われている「権」の字には、権威・権力など「力」を行使するようなニュアンスがありますが、「権利」の原語である「Rights」は、正しいこと、筋がとおっていること、正当な道理をいい、「力」の意味は含まれていません。かつて福沢諭吉はこの「権利」という訳語に警戒感を抱き、あえて「通義」と訳し、これに「あたりまえ」という振り仮名をあてました。そう考えるとウクライナやパレスチナの戦時下で暮らす子どもたちは「あたりまえではない」状況に置かれており、世界のYMCAは「あたりまえ」を取り戻すために、連帯して活動しているといえます。
目を国内に転じてみると、日本で暮らす子どもたちもまた「あたりまえ」とはいえない状態に置かれていることに気づきます。先日、全国各地のYMCA責任者が集まる「総主事会議」に、こども家庭庁の鈴木太地さん(長官官房参事官(総合政策担当)付主査)をお招きし、日本のこどもたちの課題について共に学びました。増え続ける不登校やいじめ、さらに2025年の児童生徒の自殺者は532人と最多を記録するなど、「あたりまえ」が守られているとは言い難く、少子化の広がりも深刻です。
こども家庭庁は2023年、それまで文科省や厚労省などに分散していたこども政策を一元化し、行政の「隙間」にあった課題(居場所、貧困、自殺対策など)に対応する司令塔として発足。「こどもまんなか社会」をスローガンに、こどもの視点に立った政策を立案しています。「こども家庭庁はまだ新しい組織であり、現実に即した政策を立案するためには、YMCAのように最前線で支援を行う団体からのフィードバックが不可欠です。現場の課題を国に届けていただき、共にこどもまんなか社会を実現していきたい」。鈴木さんの熱いエールに感動したひとときでした。
「子どもたちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのような者たちのものである。」(マルコによる福音書10:14)。
この聖句は、イエスの所に集まってきた子どもを追い払おうとした大人に対してイエスが語った言葉で、子どもを無条件に受け入れる大切さを示しています。社会で最も小さい存在である子どもを大切にする共同体のあり方を示しているとの解釈もあります(共著「奪われる子どもたち‒貧困から考える子どもの権利の話」より今井誠二)。子どもの「あたりまえ」が守られる共同体こそが、一人ひとりの尊厳が守られる共生社会の実践であり、YMCAがめざす「ポジティブネットのある豊かな社会の実現」につながると私は考えています。
国内外で「あたりまえ」が奪われている子どもたちのニュースが絶えない今、「こどもがまんなか、あたりまえ」を実践していくため、行政や他団体、そして何より全国YMCAの皆さまと共に手を取り合って、歩んでいきたいと願っています。
*2026年4月1就任 日本YMCA同盟 第17代総主事 太田直宏(おおた・ただひろ)
