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機関誌THE YMCA

THE YMCAは日本YMCA同盟が発行している機関誌です

 

<最新号のオピニオン>すぐそばにある「貧困」 ~大西 連

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長/内閣府孤独・孤立対策推進室参与

 私が「貧困問題」に関わり始めたのは2010年。友人に誘われて、炊き出しのボランティアに参加したことがきっかけでした。それから15年。現在は「自立生活サポートセンター・もやい」の理事長として、貧困に苦しむ数千人の方々の相談を受けています。

 炊き出しを求めてくる「ホームレス」といっても、今は路上生活者だけではありません。ネットカフェで寝泊まりするスーツ姿の人なども増えています。若者や女性も多い。事情は千差万別ですが、たとえば虐待やDVなどで家を出て、非正規雇用で働き始めたものの、不安定な就労環境で長続きせず、失業し、住居も失う。頑張ってもどうにもならず、社会から取り残されていく人たちがいます。

 それは、東日本大震災でも同じでした。私は被災地で支援活動をしたのですが、そこでもまた、自力で生活再建できない人が取り残されていく様子を目の当たりにしました。⸺日本のセーフティーネットはこれでいいのか?⸺ 以来私は「貧困を社会的に解決する」ことを目指して、この問題に取り組んでいます。

 今、日本の相対的貧困率は15%。約7人に1人と、諸外国に比べても高い水準です。原因の一つは、非正規雇用の増加です。東京都の最低賃金は時給1, 226円。フルタイムで働いても月約20万円。社会保険料4~5万、家賃5~6万を払えば生活はギリギリです。「シフトが減った」「病気になった」となれば即、貧困に陥ってしまう。こういう慢性的な低所得者が増えています。リーマンショック以来、雇用を守ってこなかった社会の現状です。高齢者の低所得も深刻です。低年金、無年金、無貯蓄層が増え、2035年には高齢世帯の約3割、562万世帯が生活保護基準を下回ると予測されています。
 もはやこれは社会構造の問題であり、個人の努力だけで解決できる次元ではありません。

 にもかかわらず貧困問題は、個人の「自己責任」とされ、社会構造の問題とみなされない傾向があります。「真面目に働いてきた自分とは関係がない」と思ってる人が多い。生活保護へのバッシングも根強い。しかし生活保護は「最後のセーフティーネット」と言われる社会保障制度です。頑張った人だけに与えられる報酬ではない。努力の対価でもなく、恩恵でもありません。憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を守るための制度であり、理由を問わずに認められるべき生存権です。

 この活動をしていると、いろいろな人に出会います。中には支援物資を盗んだ人もいました。だからといって私は、その人たちを支援対象から除外して、刑務所か病院しか行き場がないほど追い詰めていく社会を良いとは思えません。誰だって失敗はある。「自己責任」と言われて言い返せる人が、どれだけいるでしょうか。

 「つながりの貧困」という言葉があります。貧困は経済的な問題だけでなく、孤立・孤独の問題とセットになった時に生じるものです。失業や病気などで経済的なリスクに直面しても、頼れる先があれば何とかなることもある。炊き出しに訪れるのは、頼れる家族も相談相手もいない方々です。

 私たちの団体では食糧配布や生活相談のほかに、居場所作りのためのカフェや、農業体験、こども食堂など、社会的孤立状態を解消するための事業も展開しています。また、そこで出会った人たちの声を社会提言(アドボカシー)として発信することにも力を入れています。いろんな人と出会えば、いろんな困りごとが見えてくる。社会保障制度の網目からこぼれてしまったニーズがたくさんあります。それを切り捨てずに受け止め、制度を改善し、社会を変えていく必要があります。

 孤立・孤独な無縁社会を克服し、つながりあい、支え合う社会をどう作っていくか。貧困問題の解決に欠かせない視点です。(まとめ・編集部)


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