機関誌THE YMCA
THE YMCAは日本YMCA同盟が発行している機関誌です
<OPINION>変革への道~カナダ先住民の寄宿学校の調査から
真実と和解の委員会(TRC)マリー・ウィルソン
私は2008年から2015年、カナダの「真実と和解の委員会(TRC)」のメンバーとして、先住民の「寄宿学校」の調査をしました。
寄宿学校は1830年から1990年代まで、インディアンなど先住民の子どもたちを対象に国が設置していた学校です。当時はアメリカなど諸外国にもありました。いわゆる「同化政策」を目的とした学校で、子どもたちは家族から引き離されて収容され、独自の文化や言語から隔絶された環境下で英語による教育を強制されていました。多くはキリスト教教会によって運営されていましたが、その生活環境は劣悪で、虐待も常態化していたとして、カナダでは2000年前後から訴訟が始まり、2008年には当時のハーパー首相が国家的謝罪をするに至りました。「真実と和解の委員会」は、この謝罪の一環として設置されたもので、私たちはその実態調査のため、約7000人の生存者の証言を集めたのです。
それは、胸の痛む声の数々でした。「両親の目の前で、無理やり政府の飛行機 に乗せられて連れ去られた」「12年間、学校から一歩も外に出してもらえなかった。帰りたいと言うと叩かれた。食事をもらえない日もあった」「あなたは三流市民だ。あなたの言葉は価値がない。悪魔の文化だと言われ続け、体罰を受けた。いつも怯えていた」「カナダ政府はインディアンを抹消しようとしていた」――。
寄宿学校はカナダ全土に150校あり、150年間で15万人が収容されていました。生存者の多くは今もトラウマを抱え、教育レベルが低かったため定職にも就けず、その影響は子ども世代にも及んでいます。私たちはこれを「文化的ジェノサイド」と結論づけ、4000ページにおよぶ報告書を出しました。
同時に私たちはこの歴史を伝え、生存者をケアし、和解していかねばならないと考え、「94の行動指針」を作って政府に提出しました。全ての教育機関でこの歴史を教育していくこと。先住民たちが、奪われた言語や文化的慣習を回復できるよう支援すること。そういった94の行動によって国民の意識を変え、先住民の暮らしを回復し、和解しなければならないと考えたのです。
意識改革のため、先住民の方々と委員会を作ってパレードなど大規模な文化交流イベントも実施しました。イベントのテーマは、彼らが教えてくれた『7つの聖なる教え』⸺敬意、勇気、愛、真実、謙虚、誠実、英知⸺とし、古くから伝わるカヌーを使った儀式を取り入れるなど、私たちとは違う文化や伝統を学ぶ機会となるよう開催しました。カナダには先住民に限らず、多様な文化背景をもつ国民がいますから、多文化共生に向けた変革の歩みは、国全体がバランスを保って豊かになっていくために、欠かせない取り組みでもありました。
世界のYMCAは今日、このカナダの地に集まり、「Vision2030」に向かって社会を変革していこうとしています。そのビジョンに掲げられた4つの柱が、先住民をはじめ社会の隅々まで行き渡るよう願ってやみません。すなわち、誰もが安心して幸せを追求できる「コミュニティー・ウェルビーイング」、安定した生活を営むための「有意義な仕事」、先祖代々のアイデンティティーが保たれた「持続可能な環境」、一人ひとりの尊厳が認められる「公正で平和な世界」です。もちろん変革は簡単ではありません。しかし人は、共通の目的をもって集まり、学び合い、語り合い、弱さや過ちを謙虚に認め、誠実な心をもって向き合っていく時、変わることができる。変革できると、私は信じています。 (まとめ・編集部)
*「第21回世界YMCA大会」@カナダ 基調講演より
