機関誌THE YMCA
THE YMCAは日本YMCA同盟が発行している機関誌です
<OPINION>広島で学んだ「平和の文化」
広島平和文化センター元理事長 スティーブン・リーパー
今、国際情勢が悪化し、各国で武力強化が進んでいます。やっぱり強い者が勝つ。平和な世界なんて不可能ではないか? 私自身もそんな気持ちになることがあります。でもよく考えてみれば、このまま武力を強化して競い合う先に、どんな未来があるでしょうか。人類は今、試されていると思います。戦い続ける競争社会から、協力し合う平和文化へとシフトできるかどうか、大きな岐路に立っていると思うのです。
競争社会では、武器をもち、お金をもち、メディアもかかえて競争に勝った者が世界を支配します。力による支配です。そこでは、誰が強いか、弱いか。誰に従うべきで、誰を従わせるべきか。常に力の序列の中で物事が判断され、従わないと攻撃されます。今のアメリカがしていることです。でも、それではこの先うまくいかないと、だんだん皆が気づいています。競争ではなく、協力し合う必要がある。自分の国、自分の組織の利益だけでなく、人類全体の利益を考えなければ、地球は危ないと。
特に核兵器の問題は、力による支配そのものです。一度に何十万人も殺傷する破壊的な兵器の力で相手を脅し、従わせる。従わなければ人類を滅ぼすぞ、と威嚇する。非常に意識の低いやり方です。この考え方を変えて、人類全体の平和を目指していかなければ、人間は核戦争も、気候危機など他のグローバルな問題も解決できないでしょう。
私はこの「人類全体の平和を考える」という考え方を、広島の人たちから学びました。37歳の時にたまたま広島に移住した私は、多くの被爆者証言を通訳・翻訳してきたのですが、彼らに共通していたのは「国家の枠にとらわれず、アメリカを恨み憎むのでもなく、ただひたすらに世界の平和を願う」という意識でした。原爆のすさまじい脅威を経験した被爆者たちは、もはや戦争によって問題解決はできない、人類全体の平和を考えねばならないと、早い段階から気づいていたのです。私は彼らのその姿に教えられたのでした。
同時に、この「人類全体の平和を考える」という意識は、気候危機や貧困問題など、他のグローバルな諸問題の解決にも応用できるものです。平和な文化へと意識を変え、核兵器を廃絶する。核兵器の問題は、他のグローバルな課題解決の最初の一歩ではないでしょうか。
私は「平和」とは、戦う必要のない健全な社会だと考えています。すべての人が協力し合い、十分な食糧と水を得て、資源をシェアし、適切な仕事をして幸せに暮らせる社会です。人体にたとえていえば、身体を構成する何十兆個の細胞の一つ一つに栄養が行き渡り、しかるべき働きができているのが健康です。一部の国だけでなく、すべての人が健康で幸せな生活を送れる、持続可能な地球全体のウェルビーイングです。
YMCAはウェルビーイングを目指す団体ですね。ぜひ、平和文化のリーダーとして、競争社会とは違う文化を広めてください。たとえばYMCAのキャンプ場で自給自足の共同生活をしてみるなど、競争のない平和文化を具体的に体験できたら素晴らしいと思います。YMCAは政治団体ではないですが、平和を良しとする人を育て、世論を高めていけば、政治も変わります。特に核の問題では、日本より発言力のある国はないです。日本のYMCAに、日本の若い人たちに期待しています。(まとめ・編集部)
【Profile】Steven Leeper
1947年アメリカ生まれ。1歳の時、YMCA主事だった父ディーン・リーパー氏と共に来日。幼少期を日本で過ごす。1954年、洞爺丸事故で父を失い帰国。1985年に再来日。2007~2013年、広島平和文化センター理事長。2014年、広島県三次市に「平和文化村」を開設。著書に「アメリカ人が伝えるヒロシマ―『平和の文化』をつくるために」(岩波ブックレット 2016)他
