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機関誌THE YMCA

THE YMCAは日本YMCA同盟が発行している機関誌です

 

<最新号のオピニオン> 子どもが差別されない社会をつくるために

認定NPO法人メタノイア代表理事/行政書士  山田拓路さん(日本YMCA同盟常議員)

 日本で暮らす在留外国人は現在約358万人。この10年間で150万人近く増えました。それに伴い「外国にルーツをもつ子どもたち」も増えていますが、日本語力の問題もあって進学率も低いなど、課題が生じています。私は「認定NPO法人メタノイア」で、こうした子どもたちの支援をしています。その現場から見えてきたのは、言葉の壁だけに留まらない、差別の問題でした。

 外国にルーツをもつ子どもたちが直面する問題の一つに「マイクロアグレッション」があります。日常の人間関係で起こる無自覚な差別行為、などと訳されています。たとえば、日本で生まれ育っても「なにじん?」と聞かれる。「ハーフ? じゃあ英語ペラペラだね」と言われる。発言者としては悪意のない会話のつもりでも、「この容姿は〇〇人だ」「〇〇人は△△だ」という思い込みによるものであり、“日本人らしさ”という勝手なイメージを押し付けるものです。中にはいちいち自分の出自を説明するのが嫌で、新しい出会い(例えばキャンプなど)を避けたがる子もいます。“一言一言は蚊にさされる程度のことでも、何百回も繰り返されれば心を蝕む「攻撃」になる”と表現した人がいます。こうしたマイクロアグレッションは複数のルーツをもつ方の98%が経験しており、メンタル不調は全国比の5倍、自殺未遂も2倍という調査結果もあります。(「日本において複数の民族・人種にルーツがある人々についてのアンケート調査」より)。

 それだけでなく、「ヘイトスピーチ」にさらされることもあります。私が運営する教室にはクルド人の子も通っていますが、SNS上には「クルド人が増えたから治安が悪化した」「クルド人の親はあなたを殺害するかもしれない」といった根拠のない、憎悪をあおる投稿が絶えません。しかもこうした投稿が何十万回と閲覧され、数千・数万の「いいね」がつきます。

 日常の先入観からいかに差別が増幅されていくかを説明する「憎悪のピラミッド」という図があります。最初は悪意のない冗談やうわさ話など「偏見による態度」ですが、それが広がると仲間外れやいじめなど「偏見行為」が生じます。するとだんだん「クルド人って、危ない人たちなのかな?」といった不安が芽生え、就職差別や結婚、入居拒否といった「差別・排除」が始まります。やがて暴行や放火、デマ、脅迫といった「暴力」へと発展し、果てには「ジェノサイド」につながっていく。100年前の関東大震災で起きたデマによる朝鮮人虐殺もその典型です。

 

 先日、クルドの子どもが買い物している姿を盗撮され、「万引きしてるクルド人」とコメント付きで拡散され、何万回も再生されました。もちろん万引きなどしていません。デマによる「暴力」です。そのご家族は怖くて外出できなくなりました。ほかにも、見知らぬ大人に子どもが蹴られるなど、身体的な危害も起きています。

 在留外国人が増加する一方で、私たちは日々こんな暴力行為が起きている社会に暮らしています。これから日本で何が起きるか。不気味さを感じざるを得ません。もちろんヘイトスピーチを取り締まるなど、立法や行政による対応も必要です。しかし私は国や行政が変わっても、市民一人ひとりの心が変わらなければこの問題は解決しないと考えています。人の心が変わるには、長い時間がかかります。まずはお互いに出会いを重ね、「〇〇人」ではなく「〇〇さん」という個人として話せる関係になることが大切だと思います。そうやって先入観や思い込みに抗い、差別に同調しない人を増やし、憎しみを増幅させない、一緒に生きていける社会を築けたらと願っています。

 YMCAは古くから国際交流事業を行い、今もさまざまな事業領域で外国にルーツをもつ子どもたちと共に歩んでいる団体です。今こそその力が発揮され、共生社会の推進役となることを期待しています。  (まとめ・編集部)


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