機関誌THE YMCA
THE YMCAは日本YMCA同盟が発行している機関誌です
<最新号のオピニオン>「YMCAとSDGs」 上智大学名誉教授 田中治彦
2016年にSDGs(持続可能な開発目標)が始まって10年が経ちました。日本では、学校をはじめ行政、企業でもすっかり浸透し、その周知度は9割に達しています。しかし学校等で聞いてみると、実際に行動に移されていることと言えば、節約やリサイクルが中心で、「SDGsを学習したものの、何をしてよいのかわからない」といった実態もうかがえます。
世界的には、途上国における貧困人口の減少や、乳児死亡率の低下など保健医療分野での成果があがっています。日本の「母子手帳」が途上国の乳児死亡率の減少に役立ったり、「蚊帳」の普及でマラリアが減った等の報告もあります。全体として、17の目標の達成度は2~3割程度。気候変動や平和など、未達成の目標をあと5年で達成することは難しく、SDGsの残された課題は2030年以降も継続されると言われています。
今後のSDGsを考えていく際に私は、「つなぐ」がキーワードになると考えています。たとえば海の生態系を守ることは、その源流となる森林環境とつながっています。そして海も森林も、観光業などの産業と無関係ではありません。17の目標は相互に関連し合っているのです。
学校教育でいえば、理科、社会、英語、家庭科などすべての教科に関わるのがSDGsです。これまでは、産業は社会科、自然環境は理科と個別の教科で教えてきましたが、教科間をつなげるカリキュラム・マネジメントが必要です。産業の発展と貧困問題、健康、地球環境をつなげて考える。そのジレンマに向き合い、未来をトータルに考える、子どもたちが将来を構想するという発想が必要です。行政も同じです。健康福祉課、環境課、産業振興課などの部局間の提携が必要です。NPOも団体間の協力が求められます。
ところでYMCAは、環境教育、国際協力、人権など、17の目標のすべてに関わっている団体です。内部で連携して、その総合力を生かせば、「つながる」モデルを提示できるのではないでしょうか。
そもそもYMCAは1970年代から国際協力募金を行い、開発問題や貧困、環境教育、平和教育などにいち早く取り組んでいます。1982年には現在の「開発教育協会」が、日本YMCA同盟を事務局として発足しました。
私自身も当時、東京YMCAでボランティアリーダーをしており、国際理解講座をシリーズで企画したことがありました。その後も「地球市民育成プロジェクト」など、地球市民意識とリーダーシップを育成するプログラムを生み出し、若者が地域と世界の課題に関わる支援をしてきました。こうしたYMCAの働きが、今のSDGs教育の原型を作ったと言っても過言ではありません。今、世界のYMCAが取り組んでいる「Vision2030」もSDGs
と連動したものですし、そのビジョンはSDGsとほぼ一致しています。今後もYMCAが世界のSDGsをリードしていくことが期待されます。
同時に私が危惧しているのは「反SDGs」の動きです。米国はパリ協定から離脱しましたし、日本でもSDGsへの支持を公言しない政党が出ています。SDGsと親和性の高いYMCAは今後、SDGsを推進するだけでなく、反SDGsに対して発言する役割も担わねばならないでしょう。私は危機感とともに、YMCAの今後の活動に期待しています。 ( 「YMCA史学会」第104回 定例会 発題より まとめ・編集部)
※「YMCA史学会」は1997年、YMCA史研究のため有志によって発足。YMCAの事業活動、人物、組織など、多様な研究を行っている。現在は会員約50名。年4回の例会で発表し、その記録を会報として発行している。事務局は東京YMCA内(Tel 03-6302-1960)
【Profile】
上智大学名誉教授/認定NPO開発教育協会監事/東京、横浜、岡山、日本YMCA同盟の役員・委員を歴任。現在は東京YMCA学院評議員。著書に「新SDGs論 現状・歴史そして未来をとらえる」(人言洞)ほか多数。
昨今は“講演ユーチューバー”としても発信している。
➡YouTube「田中治彦のグローカルセミナー」
