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機関誌THE YMCA

THE YMCAは日本YMCA同盟が発行している機関誌です

 

<最新号のオピニオン> 「共に生きる」ためのレッスン
~寛容さが失われる時代にYMCAができること~

文教大学人間科学部准教授 青山 鉄兵さん

 今から100余年前、戦前のYMCAが行っていた組織キャンプには、自分たちで民主主義的な小社会を作ってみようという、社会実験の場としての側面がありました。日本が軍国主義への歩みを加速させていた時代に、山中湖や野尻湖のキャンプ場で数週間、自分たちで生活ルールを作り、グループワークの手法を用いて、理想的な共同生活を築こうと試みた。当時の組織キャンプは、青年たちの理想を追求するための社会実験でもあったと言えます。

 こうした先駆的な実践は、第二次世界大戦後、占領軍によって全国的に普及された青年たちのグループ活動の源流にもなりました。グループワークを用いた民主的な小集団活動は、戦後の価値観の変容に混乱する若者たちにとって、民主主義を直接体験し、新しい社会を作っていくための指針ともなるものでした。

 100年以上前のYMCAにおいて、組織キャンプやグループワークが単に青少年の成長のためだけでなく、「新しい社会をつくる」ための営みとしても展開されていたことには、学ぶべき点があると思います。
 特に今は、「民主主義の危機」が懸念される時代です。YMCAの組織キャンプやグループ活動には、分断が広がり、寛容さが失われていく現代にこそ、あらためて多様な人たちと共に社会をつくる体験の機会を提供することが求められるではないでしょうか。

 子どもたちを取り巻くSNS空間でも「フィルターバブル」などと言われるように、自分が気に入った情報だけが表示され、異なる価値観と接する機会が減っていると言われます。多様な人たちとの共生、一人ひとりの自由や自治を大切にした共存の在り方、そういう体験の場の重要性はますます高まっていると思います。

 ただし、グループ活動が民主的なものとは限らないことには注意が必要です。
 グループは、時に人を支配し、管理し、自由や多様性を失わせる側面をもっています。特に同調圧力の強い今の中高生に「グループで仲良く過ごしなさい」ということは、かえって生きづらさを増すものになりかねません。実際1980年代頃から若者の集団離れが起き、グループ活動に若者が集まりにくくなっています。今はむしろ「居場所」のように、何もせずに居るだけでいいという、ゆるやかなつながりが好まれます。欧米と違って「個人」が尊重されにくい日本においては、個人と集団の力のバランスをよく考えなければなりません。そのためには個人の自由や主体性をしっかりと尊重し、自治的な集団を目指すことが大事です。

 もう一つ重要なポイントは、多様性です。昨今、世界各地で多様性を否定する動きが起きているなか、多様性を認め合えるインクルーシブな社会をどのように作っていくかが課題となっています。とはいえ、多様でインクルーシブな社会とは、トラブルのない社会ではなく、むしろみんなでトラブルを解決し続けられるような社会であるはずです。民主的なグループの経験こそ、こうした多様な人と共に生きていくための基礎となるものだと言えるでしょう。

 私は小学生の頃、障がいのある子どもたちとの統合キャンプに参加していました。さまざまな人と共に過ごした経験は、自分とは違う人たちについてリアリティーをもって考える原体験となったと思っています。多様な人と一緒にいるのが当たり前だという感覚を培うこと。一人ひとりを大切にし、問題があれば意見を交わして、異質な他者と共存していくこと。YMCAが伝統的に取り組んできた組織キャンプやグループ活動が、これからも自由で多様な社会の実現に寄与するものになることを願っています。 (聞き手・まとめ 編集部)

【Profile】青山 鉄兵
文教大学人間科学部准教授。専門は社会教育、生涯教育。国立青少年教育振興機構 青少年教育研究センター研究員ほか歴任/日本YMCA研究所講師/2016-2024日本YMCA同盟常議員/東京YMCA評議員、野尻学荘副荘長


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