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機関誌THE YMCA

THE YMCAは日本YMCA同盟が発行している機関誌です

<最新号のオピニオン>

『YMCAと人権』 ~地域から、そして子どもたちからの発信~

盛岡YMCA 理事長  魚住 英昭

 1948年12月に世界人権宣言が採択されて以降、世界各国は、人種やジェンダー、子ども、少数民族、移住労働者など、さまざまな領域における差別撤廃や人権擁護に取り組んできました。しかし、一昨年以来、終息の兆しが見えないロシア・ウクライナ戦争、イスラエルとハマスの戦闘を端緒とするパレスチナ・ガザ地区の深刻な人道状況は、20世紀前半にタイムスリップしたかのような錯覚を覚えるほど、歴史の進歩への期待を打ち砕くものとなりました。
 一方、国内を見渡すと、ジャニーズや自衛隊における性暴力や宝塚歌劇団におけるいじめ、名古屋出入国在留管理局におけるスリランカ女性の死亡事件など深刻な人権侵害事件が後を絶たず、我が国の人権後進国ぶりをさらけ出しています。
 世界各地の紛争や市民の抑圧に対しても、SNSが介在した現代特有の差別やいじめに対しても、心ある多くの人々が無力感や焦燥感を感じているのではないでしょうか。

 盛岡YMCAでは、ここ数年、スタッフや学生リーダーが、学童保育やスポーツ・キャンプ等のプログラムに集う子どもたちとともに人権の問題に取り組んできました。カナダのハイスクールに起源を持つ「ピンクシャツデー」への参加や教育研究者・山崎聡一郎氏の著書「こども六法」にヒントを得た「前潟六法」の作成(注.前潟は、子どもたちの拠点である学童クラブの名称)、岩手弁護士会子どもの権利委員会とのコラボによる「人権かるた」の制作などです。いずれも、いじめの問題に焦点を当てたものです。昨年12月の人権週間には、盛岡人権擁護委員協議会が主催する『人権の広場』にも協賛し、これらの活動の一端を展示しました。

 我が国の人権教育や人権啓発は、伝統的な修身・道徳教育の枠組みの中に位置づけられることが多く、子どもや女性、性的少数者を権利の主体として尊重し、権利の担い手として積極的に発言・行動することを促す主権者教育の側面が薄かったと言われています。盛岡YMCAが運営する学童クラブやスポーツ教室、キャンプ等のプログラムにおいては、スタッフや学生ボランティアリーダーも子どもたちからニックネームで呼ばれ、愛着と信頼を得ています。一定の世代間境界を保ちつつも、学校教育場面における教員・生徒のタテの関係とは異なる開放的な空間の中で子どもたちと接しています。このような空間においても、子ども同士の対立やいじめなどの問題は発生しますが、盛岡YMCAでは、子どもたちとともにそのような日常と向き合い、子どもたちと課題を共有することを大切にしています。すなわち、子どもたちを単に保護の対象とするのではなく、子どもたちが種々のプログラムを通じて、自らが権利の主体であり、人権擁護の担い手として成長することを目指しているのです。
 当然のことながら、スタッフや学生リーダー等、子どもに関わる大人たちにも思考停止に陥ることなく、常に自らの人権感覚を振り返り、アップデートし続ける大人として自己研鑽することが求められます。
 盛岡YMCAは、地方都市の小規模なNPO法人ですが、子どもたちとともに人権やSDGsの諸価値を大切にし、担える市民団体でありたいと願っています。


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