「共に歩む」とは何か ~難民の声、家族の多様性から考えた多様性~フォトジャーナリスト 安田菜津紀 - 公益財団法人 日本YMCA同盟

「共に歩む」とは何か ~難民の声、家族の多様性から考えた多様性~
フォトジャーナリスト 安田菜津紀

――第52回全国学生YMCA夏期ゼミナール基調講演より――

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 この地中海に面した美しい港の写真は、2018年2月にガザ地区で撮影したものです。友人が「最後に自慢の場所があるからどうしても見て」と連れてきてくれた場所でした。「きれいでしょう。でもね、あそこに見えている漁師さんたちは遠くまで船を出せないんだよね。もし何キロか先まで船を出そうとしたら、捕まるか、撃たれるか、どちらかなの」と彼女は言いました。

 パレスチナ問題は宗教問題と語られがちですが、それはミスリードです。ヨーロッパなどで迫害されたユダヤ人をヨーロッパ自身が引き受けず、アラブ・パレスチナ人が暮らしていた土地へユダヤ人たちが入植後、1948年イスラエルが建国され、家を追われた難民が逃げ込んだ場所のひとつがガザでした。ここで起きているのは宗教ではなく、宗教を引き合いに暴力を正当化する政治の問題です。

 福岡市ほどの狭いエリアに約220万~230万人が暮らす人口密集地で、周囲を封鎖されるガザは「天井のない監獄」と呼ばれています。港を案内してくれた友人アマルの自宅は爆撃で跡形もなく倒壊しました。空爆で2カ月間昏睡状態だったマハディさんは、目覚めた直後に両親、8人の兄弟、幼い2人の娘が一挙に殺害されたと知らされ、命が助かった瞬間に「残念ですね」と声をかけられました。確認されているだけで死者7万3千人以上、いまだ少なくとも1万人以上が瓦礫の下に埋まったままだと言われています。人々は言います。「私たちは数ではない。一人ひとりに人生と夢があったのだ」と。

 シリアも長らく戦争が続いてきた場所です。2011年の大規模な民主化運動に対し、政権が武力鎮圧を図ったことが始まりです。反政府デモを支持したことで警察に追われたシリア出身のクルド人ジュディさんは命からがら日本へやってきました。しかし「名指しで命を狙われている客観的証拠がない」と難民不認定となり、日本で生まれた彼の娘も事実上の無国籍です。日本の外国人政策の根底には、人を人権の主体ではなく管理監視の対象とする姿勢が窺えます。隣人として存在するのに、まるでいないかのように扱われているのです。

 この姿勢には歴史的連続性があり、私自身のルーツにも関わっています。高校生の時、戸籍を見て初めて父が在日コリアン二世だと知りました。幼少期、絵本をスラスラ読めない父に「お父さん変だよ。日本人じゃないみたい」と言い放った時の父の顔を私は一生忘れません。いつもの笑顔の奥だけが笑っていない。差別の中でルーツを隠し、語ることができなかった父にとってどれほど残酷な言葉だったでしょうか。

 巨大な暴力や差別がある一方で、遠くの他者を思い合えると教えてくれたのもガザでした。東日本大震災以降、ガザの子どもたちは復興を祈って毎年3月に凧揚げを続けてきました。14歳のシャヘドさんは「あんなに多くの人が同時に家を失い、どれだけ苦しく悲しかったか。こんどは私から日本の人を励ます番だ」と語ってくれました。その彼女とも2023年10月の大虐殺以降、連絡が取れていません。人権や人命は何かの対価ではなく誰しもが守られるべきものです。遠くの他者を思って人は行動できると最も強い形で教えてくれた彼女たちに、私たちはどんな応答ができるのでしょうか。。

《Profile》安田菜津紀(やすだ・なつき)さん: 認定NPO法人Dialogue for People フォトジャーナリスト。同団体の副代表。東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。

(まとめ・福田奈里子)

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  • 《2面以降》 *PDFでご覧ください
     
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  • ・ガザ侵攻3年「忘れないで」現地の声に応え続ける
     
  • ・2026年熊本地震リフレッシュキャンプ
     
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