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緊急提言シリーズ『スポーツと体罰』1~8

サッカー、体操、水泳など、伝統あるYMCAのスポーツ指導は、いのちをかけがえのないものとして育む精神に基づいています。
昨今のスポーツ指導における体罰、暴力の報道に接し、『スポーツと体罰』 について提言します。

<緊急提言『スポーツと体罰』>
1 Fair Play=他者への思いやり ―YMCAファイブゴールへのアプローチ  神戸YMCA 総主事 水野 雄二
2 YMCAから生まれたバスケットボール ―発明者ネイスミスの願い  名古屋YMCA 総主事 加藤 明宏
3 達成感と幸福感を分かち合うこと 障がい児・者の成長とスポーツからの気づき  北海道YMCA 総主事 宮崎 善昭
4 「のび太くんのような人」を育みたいと願っています  岡山YMCA 総主事 太田 直宏

特別寄稿
5 スポーツの真髄は、自分に克つことを理解すること  アジア・太平洋YMCA同盟総主事・柔道家 山田 公平氏
6 コーチングに暴力はいらない  元関西学院大学アメリカンフットボール部監督 武田 建氏
7 一人の人間として対等であった”なでしこジャパン”  元サッカーなでしこジャパン チームキャプテン 池田 浩美氏
8 スポーツ科学と指導の連携モデルを  大阪体育大学学長 永吉 宏英氏

2013年2月1日
Fair Play=他者への思いやり ―YMCAファイブゴールへのアプローチ

神戸YMCA 総主事
水野 雄二


YMCAは、昨今、学校や社会において繰り広げられたスポーツ競技における「いじめと体罰」の実態報道に接し、深い嫌悪感、不快感を表明すると共に、関係者の意識や言動の変革を求め、以下の基本姿勢を提唱します。YMCAでは、子どもたちの心身の健全な成長を願い、ユーススポーツ活動を続けています。YMCAのユーススポーツでは、5つの目標(ゴール)を掲げて、その実現に努力しています。第1に楽しさです。基本的にそれは楽しくなければなりません。第2に、体力づくりに励み、健康に対する意識を高めると共に、自由な身体的表現を学びます。第3に、高度な技術を身に付けると共に、そのプロセスで達成感や満足感を体得します。第4に、仲間との練習やゲームを通して、他者への思いやりを学びます。ずるい行為をすることなく、すべてのルールを守ることは当然ですが、相手への敬意の表現、挨拶の励行などもフェアプレイの表れです。そして最後に多様な価値観を分かち合うことで、他者を受け入れ、また自分も受け入れてもらう体験を重ねます。
スポーツにおいてゲーム(試合)は不可欠です。練習の成果を存分に発揮していくことで、ゲームの楽しさを味わうことができ、上手くなりたい気持ちが高まります。そして、勝ちたい気持ちにつながっていきます。「勝ちたい」気持ちを大切にしつつも、勝つことだけがすべてである世界ではなく、スポーツを通して子どもたちが自らの力で成長していける場となるように努めています。
スポーツを愛する子どもたち、若者たちが、スポーツを楽しみ、仲間との公正なゲームを通して、自らが、そしてまた仲間も共に成長する場であってほしいと願います。

2013年2月4日
YMCAから生まれたバスケットボール ―発明者ネイスミスの願い

名古屋YMCA 総主事
加藤 明宏


1891年12月21日早朝、米国スプリングフィールドの国際YMCAトレーニングセンターで、バスケットボールが生まれました。このように1つのスポーツの誕生日がはっきりしているのには訳があります。それはバスケットボールが、YMCAのスタッフであったJ・ネイスミスによって「全く新しいボールゲーム」として考案されたからです。
意外なことに最初のルールはわずか13条のみでした。しかしその中に、「仲間と一緒に、安全に、楽しく、気軽にプレーする」という発明者ネイスミスの願いが込められています。ルールの第5条に「どのような方法であれ、相手を小突いたり、つかまえたり、押したり、つまずかせたり、たたいたりすることは許されない」とあります。そしてファウルと退場にも言及しています。いかなる暴力的行為も、あるいはラフプレイも徹底的に排除しようというネイスミスの断固たる気持ちが表れています。
出場200チーム超、約3,000名の中学生、それを支える約800名の先生方や運営ボランティア。名古屋YMCAは名古屋ロータリークラブと共催で、「名古屋市内中学生バスケットボール大会」を56年前から開催しています。全国大会に出場するチームから、何とか部員を集めて出場するチームまで、それぞれチームの事情は異なりますが、「ネイスミスの願い」を受け継いで、フェアプレイの精神、お互いを思いやる心を大切にしながら、中学生たちは汗を流しています。バスケットボールの歴史とネイスミスの願いを、ユース世代に伝えながら、多くのプレーヤーがバスケットボールを通して成長し、次代に受け継いでいって欲しいと願っています。

参照:『バスケットボールの創成』 水谷豊 体育学研究

2013年2月4日
達成感と幸福感を分かち合うこと 障がい児・者の成長とスポーツからの気づき

北海道YMCA 総主事
宮﨑 善昭


北海道YMCAには、障がい児・者が参加するスポーツのクラスがあります。そのクラスは、婦人ボランティアの人たちによって始められましたが、障がい児・者のリハビリのための”訓練”や、”治療”を目的としたものではありませんでした。それは、私たち同様、生涯スポーツとして楽しむための技術習得・向上と持久力養成を願いとするものでした。
技術を習得し、合わせて持久力を付けることによって、生涯に渡ってスポーツに親しみ、レベルアップを目指しながら興味を増し楽しむことが可能となり、人間としての営みや活動の範囲の広がりにつながるのです。そして、何より自信と誇りを持って主体的に生きて行くことの一助になれば幸いという思いを持っていました。
この障がい児・者のプログラムでは、ボランティアのリーダーが、常に寄り添い気遣う者として伴走しながら、グループワークの手法によって仲間作りもまた指導します。ですので、同じクラスの仲間と共に成長していく実感も得られるのではないかと思います。
私たちにとっても、障がいのある人たちを遠い存在としてではなく、身近な存在として日常の中で捉えていくことが必要です。彼らと共にスポーツを楽しみ、あるいは競い、それによって得られる達成感、幸福感を分かち合うことが大切なのです。障がいのある人に対するスポーツ技術の指導は、もしかしたら時間が必要かも知れません。しかし、それは大きな問題ではありません。なぜなら、それは生涯スポーツとして一生に渡って付き合うものだからで、習得に時間がかかるということは一生という人間のスパンから見れば些細な事柄だからです。私たちは、いかなる競技、いかなる競技者へのスポーツ指導において決して傍観者側に立って客観視するのでなく、当事者として主体的に共に向き合い、分かち合いながら歩んでいくという姿勢と行動が求められていると思います。

2013年2月6日
「のび太くんのような人」を育みたいと願っています

岡山YMCA 総主事
太田 直宏


「のび太くんを選んだ君の判断は正しかったと思うよ。 あの青年は人のしあわせを願い、 人の不幸を悲しむことのできる人だ。 それが人間にとって大事なことなんだからね。」 これは、しずかちゃんのパパが、娘に贈った餞の言葉です。この言葉を聴くといつも思い出すのが、「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい。」という聖書の箇所。私が母校関西学院大学を卒業する時に、卒業式で読まれた「新約聖書ローマの信徒への手紙 12章15節」の言葉です。果たして私たちは聖書に示された「のび太くんのような人」を育んでいるでしょうか? 岡山YMCAでは、さまざまなプログラムを通して、「のび太くんのような人」を育もうとしています。そのひとつがユーススポーツプログラムで、そのなかでもサッカーは大人気で、300人のこどもたちと22人リーダーが参加しています。
サッカーのルールはたった17条しかありません。FIFA(国際サッカー連盟)が発行している英文のルールブックもルール自体の記述はわずか25ページにすぎません。ルールの単純さ、それがこのスポーツが世界の国々にこれほど広まった理由です。もちろん毎年のようにルールの改正が行われています。それはFIFAがサッカーをより魅力的で楽しいものにしたいという考えを常に持っているからです。しかしながら細かい点が変わってもFIFAは「ルールの精神」を大事に守っています。そしてこの精神は17条のルールの背後に一貫して生き続けています。その精神とは、「平等」「安全」そして「喜び」の3つに象徴される人を大切にする「フェアプレイ精神」です。こういう観点から見るとそのルールは納得のいくものばかりです。唯一難しいとされる「オフサイド」も「待ち伏せはいけない、ずるがしこい行為は禁止です」という観点で考えればわかりやすいでしょう。
しかしながら、サッカーが世界規模で人気を得、注目が増せば増すほど、試合の結果が重視され、「勝つためなら何をしても良い」という風潮が生まれてきました。そしてそのような風潮はプロのみならずアマチュアレベルにまで広がってきたのです。今回の体罰の問題もそのことと無縁ではありません。本来なら非難されるべきプロフェッショナルファール(勝つために計算された故意のファール)が「チームのための行為」と賞賛されたり、ペナルティーキック欲しさの「シミュレーション」(ファウルされていないのに倒れてレフェリーを騙そうとする)が増加したりとフェアプレイの精神を踏みにじるような行為が多くなり、非常に憂慮すべき事態を招いたのです。
そこで1997年よりFIFAは、サッカー本来の楽しさを取り戻すために全世界規模でフェアプレイキャンペーンを実施しています。試合の前にフェアプレイフラッグが入場し、ユニフォームの袖にフェアプレイマークが縫い付けられているのはその象徴なのです。わたしたちYMCAも、こどもたちのサッカープログラムを通して、こどもたちに「フェアプレイの精神」を伝え続けています。ここでいうフェアプレイは、単にルールに従うという狭い意味ではなく、まさに「のび太くんのような人」を育もうということに他なりません。そしてそれは「自分を愛するように、他者を愛する」というイエスキリストの教えに基づいているのです。それゆえに私たちのサッカープログラムでは、セルフジャッジを通して自ら判定を行い、試合相手を「敵」ではなく「ゲームメイト」と呼び、イエローカードではなくグリーンカードを出すのです。また、各大会で提供される賞も、1等賞とフェアプレイ賞の価値が同じとわかるようにトロフィーの大きさも一緒にしたり、各チームの何が素晴らしかったかをみんなの前で発表し、勇気づけたりとリーダーたちが智恵をしぼって工夫を凝らすようにしています。このような指導環境のもとに育まれたこどもたちは、サッカーのみならず日常生活のなかでも「フェアプレイ」精神を行動原理とする「のび太くんのような人」として育っていくのです。
「しあわせ=仕合せ」。それはのび太くんのように「相手を思いやり、仕え合うこと」だと信じています。自分がして欲しいと思うことを人にする、そんなフェアプレイの精神に満ちあふれた社会こそが「しあわせな社会」なのです。人の喜びや痛みに鈍感になってしまったわたしたちは、自分のことしか考えられない世の中を一生懸命つくってきたのです。いまこそ、他人事を自分事にできるような「しあわせな社会」をつくりたいものです。こどもや若者が、互いに仕え合い、響き合える「のび太くんのような人」となり、地球規模のしあわせな社会をつくっていくためにも、今一度フェアプレイの精神を大切にしていただきたいと思います。

注1 セルフジャッジ:自ら審判となり、判定を出す仕組み。反則を行ったときも正直に自己申告をします。
注2 グリーンカード:頑張った証、負傷選手への(思いやり)対応、規則準拠に対する自己申告、問題行動への抑止行動、チームに対する試合への取り組みなど、良い行動に対して提示される励ましカードのこと。

2013年2月4日
特別寄稿
スポーツの真髄は、自分に克つことを理解すること

アジア・太平洋YMCA同盟 総主事
山田 公平(柔道6段、香港在住)


柔道は、嘉納治五郎が明治の初めに紹介した日本の武道です。当時、柔術がそれぞれの流派をもちつつ発展していました。武道として生きるか殺すかの格闘であった柔術を、心と体の鍛錬のための近代スポーツにしようとしたのが、柔道のはじめです。東京オリンピック(1964)で柔道が正式な種目にされたことにより、一気に柔道が国際化していきました。柔道が、スポーツとして世界中に発展していきましたが、柔道もどんどん変化していき、殆ど毎年、審判ルールが替わって行き、技もスタイルも変化していきました。勝つか負けるかが大きなポイントでどう稽古を積むか、どう人を育てるか、何を目的に柔道を教えるかということは、あまり語られていないように思います。
嘉納治五郎は、柔道精神を、「精力善用、自他共栄」と言う言葉で表しました。それは、もっているエネルギーをより良い社会作りのため、良い人間関係のために使い、ともに支えあうこと、すなわち人生において共に勝つと思える関係を築くのが柔道の精神だと言っています。その精神は、まさに教えるものと教わるものの関係の中にも生きている精神です。
柔道を長くしていると、個人あるいはチームとして勝ったときの喜び、負けたときの悔しさを味わいつつも、後になって精力善用、自他共栄の本当の意味が分かるようになると思います。本当の強さは体と技の鍛錬と同時に、精神面での強さからくるものです。大学時代、勝ちたければ毎日、与えられた練習にくわえ、自分だけで毎日休まず体を鍛える努力を実行したときに本当の精神的な強さというか自信のようなものが身に付いていくことを学びました。この教訓は、柔道の試合だけでなく、柔道以外の世界でも、また日本以外の国でも通じる精神であると思います。
スポーツ選手や指導者が強さを求め、さまざまな厳しい訓練をしています。柔道が競技スポーツになっていく中で、強くなって試合で勝てば良いということだけに集中するようになりました。しかし、年をとっても残るものは、鍛えられた精神力とやり遂げたという自信ではないかと思います。
私にとり、スポーツの真髄は、自分に克つことを理解することではないかと思います。したがって、勝つことは自らに克つこと、それを理解して訓練をつみ、そうして身に付いた力は、精力善用、自他共栄の精神そのものにも通じるものになると信じます。柔道を愛する指導者が、この精神を広げる指導者になってもらえたら、すばらしい世界、仲間が世界中に広がっていくと信じています。

2013年2月6日
特別寄稿
コーチングに暴力はいらない

元関西学院大学アメリカンフットボール部監督
武田 建氏


最近の新聞もテレビも、スポーツ界で起こった暴力事件でいっぱいです。こんなとき、大切なことは、「暴力はいけない」と非難するだけではなく、どうすれば殴らず、怒鳴らず、青少年を指導するか、YMCAの持つノウハウを世間に伝えることです。
「静かにしろ!」と怒鳴れば、子どもはすぐ静かにします。でも、その静けさは長続きしません。すぐ騒ぎだします。罰の効果は短時間です。ですから、また怒鳴るのです。怒鳴る度に効果は小さくなるので、もっと大きな声で怒鳴ります。こんなチームでは、怒鳴る人がいなければ、選手はさぼります。そこから生まれるのは、怒りと憎しみです。すべての選手がコーチを告発しないでしょう。でも、チームを去る者がでるでしょう。物理的に離れなくても、いやいやプレーする選手になります。そして、彼らはやがて「怒鳴る親」「怒鳴る上司」「怒鳴るコーチ」になる可能性が大きいのです。
人間関係では「与えたものが、自分に返ってくる」と言われます。親切にすれば親切が。意地悪をすれば意地悪が返ってきます。でも、プラスにプラスが返ってくるより、マイナスにマイナスが返ってくることの方が多いそうです。叩いた監督は告発されました。仮に告発しなくても、選手の心は離れていきます。選手はいやいや練習をしているからです。
コーチが思うように選手が練習しないならば、選手を怒鳴る前に、自分がどうやって指導しているか、選手がどんな具合に練習しているか、特に自分の教え方、指示の出し方と選手の反応をチェックしてみましょう。自分のコーチの仕方をビデオでとりましょう。それを他のコーチたちと見ましょう。ビデオがなくても、見てもらって話合うことはできます。子どもに無理な要求をしていないか、難しい動きでないか、細かく区切って教えていますか。複雑な動きも良く見れば、小さな動きの連続であり、組み合わせです。その一コマひとこまを取り上げ、どうするかを具体的に教え、やらせ、ふり返って見ましょう。一コマができたら、もう一コマとつないでやらせましょう。そして、全部をやるときには、ゆっくりで良いから正確に。そして、少しずつスピードアップです。
やる前にどうするかを言っておくだけでなく、やっている途中でも注意点を言いましょう。うまくやれたら、すぐに「良かった!」と言って、みんなでバンザイです。完全でなくても、まずくても、前よりも良くなったら、「良くなった」と言って、改善点を指摘しましょう。指導者がお手本を見せることができれば、まさに「百聞は一見にしかず」です。
私は叱ってはいけないとは言いません。 「悪いところ」は指摘しましょう。でも、どうやって欲しいかを言ってください。 やれたら「やったー、良かったね」と一緒に喜ぶのです。
数学の先生は数学を知っています。でも、数学の知識があっても、教え方を知らなければ良い授業はできません。コーチング、それはYMCAの小学生でもオリンピックの強化選手でも同じ理論と方法です。教える対象のレベルが違うだけです。こんな指導をYMCAでは100年以上前からやっています。YMCAの会館や体育館を、そしてキャンプを是非のぞきに来て下さい。

<武田 建氏プロフィール>
元神戸YMCA余島キャンプリーダー。1967年、関西学院大学アメリカンフットボール部監督に就任し、10年間で7回大学日本一。その後、同高等部監督8年間に6回高校日本一に。関西学院大学大学長、理事長も歴任。専門は臨床心理学、社会福祉学。

2013年2月15日
特別寄稿(インタビュー)
一人の人間として対等であった ”なでしこジャパン”

元サッカーなでしこジャパンチームキャプテン
池田 浩美氏


-今回の一連の体罰の報道に接して
私自身、女子サッカーの経験では、体罰は一度も経験したことがありません。ですので、驚きもありましたが、一方で柔道やバレーボールには、そのスポーツの特徴として厳しい上下関係やハードな練習というイメージがあり、特に柔道は国技として歴史や伝統があって、私も含めて関係者や周りも「そういうもの」との思い込みがあったかも知れません。しかし、選手が違和感を覚え、さらに肉体的、精神的に恐怖心を抱いてしまったらそれはもう、そのスポーツの特徴ではなく、ただの「犯罪」です。国を背負って勝つことの重圧のなかで、選手だけでなく、指導者自身も心に余裕をなくしてしまうこともあるかもしれません。

-”なでしこジャパン”の練習はどのようなものでしたか?
監督、選手も、一人の成人として上下関係なく対等であり、監督の指示や、ベテラン選手の意見にも、間違っていると感じたら、誰でもそれを言い合える関係でした。男女、年齢、経験等は関係ありません。グラウンドに立ったらみな対等です。 しかし、実はグラウンドに立っている時より、普段の合宿や生活が肝心なのです。特にベテラン選手が率先して、意見や不満を後輩たちが出せるよう、心がけ働きかけていました。単なる上下関係と、互いを尊敬、尊重し合うことは異なり、日常のなかで人間関係を育みながら理解することを通して、初めてグラウンドでもチームとしての力が発揮されるのです。

-女性と競技スポーツの環境について
女子サッカーは、いまは多くの方に認めていただき素晴らしい練習環境も整いつつありますが、当初は「女子がサッカー?」と相手にされず、選手もアルバイトをかけもちしながら練習していたこともありました。しかし、振り返ってみると、そのような逆境だったからこそ、本当にサッカーが好きな人が残り、世界に通じる強い”なでしこジャパン”になったとも言えます。環境は良いに越したことはありませんが、環境がすべてではありません。 アメリカなどの世界の女子サッカー強豪国は、監督、コーチ、トレーナーの他にベビーシッターも遠征に同行し、子どもを連れて参加している選手が大勢います。女性のアスリートが、結婚、出産、子育てと、第一線で活躍する競技生活をどうライフプラニングするか、日本はまだまだ課題があります。YMCAでは女の子も数多くサッカーを楽しんでいますね。今後も期待を持って応援しています。
(聞き手:編集部)

<池田 浩美氏プロフィール>
元サッカーなでしこジャパンチームキャプテン。高校からサッカーを始める。なでしこリーグでは、新人賞獲得を皮切りに、ベストイレブン9回、敢闘賞2回獲得という輝かしい成績を収め、2004年アテネ五輪ではゲームキャプテンとしてチームを牽引、大きく貢献。その後、2007年FIFA女子ワールドカップ出場、既婚者プレーヤーとして旧姓「磯崎」から「池田」に。2008年東アジア選手権では優勝を収め、なでしこジャパン初タイトルに大きく貢献した。現なでしこジャパンの佐々木監督とは、コーチ時代から代表メンバーとして一緒に闘っており、現キャプテンの澤穂希選手の前任キャプテン、大きな基礎を作った。2008年、所属チーム休部に伴い、現役引退。2児の母。
(資料協力:株式会社アマーイズ)

2013年2月18日
特別寄稿
スポーツ科学と指導の連携モデルを

大阪体育大学学長
永吉 宏英氏


大阪市立桜宮高校で痛ましい事件がおこった後、本学の学生たちに「運動部指導における体罰の是非」について書いてもらいました。大多数は、学校運動部という教育的営みの中で「体罰は絶対にあってはならない」という強い思いを述べており、頼もしく感じました。しかし、一部に体罰を容認する意見があったのも事実です。彼らが中学や高校の部活動で受けた体罰は、教員と生徒の信頼関係が前提とされていたことや、後一歩で殻を破れないでいる生徒の精神力を強化するためのやむをえない”愛の鞭”であり、体罰ではなかったというのが容認の根拠でした。多くはスポーツ強豪校の出身であり、自らが受けてきた厳しい指導やそれに耐えて頑張ってきた事実を”体罰”という言葉で否定されたくない、勝利をめざし頑張ってきた努力の中にこそ価値があったと信じたい、容認する学生たちの思いもまた、切実なものでした。
このような考え方は、トップレベルの選手育成に関わる指導者の中にも見られます。体罰の連鎖はスポーツの世界に現実としてあります。しかし、もちろんスポーツ指導において体罰が許されないのは自明のことです。 教育系、体育系の大学では、スポーツ科学の最新の知見に基づく講義や実習、「スポーツ教育学」や「特別教育活動」、そして「スポーツコーチング」などの教育理論やコーチング理論に関わる多くの科目が用意されています。中学や高校で部活の指導に当たる先生方やスポーツ指導者の多くは、それらの教育を受けて育ちました。では何故、それが指導に十分に活かされず、体罰が強靭な精神力を鍛えるとして受け入れられているのでしょうか。
二つの課題があります。一つは、人権に関わる教育が手薄なことです。法学一般の教育ではなく、人権を基本に据えたスポーツ法の教育を指導者養成の中に必修として入れることが必要です。二つは、スポーツ科学やスポーツ教育学の学びを指導者養成や運動部活動の中に収斂させていく大学としての哲学と、運動部強化モデルの確立です。めざすべき指導者像、スポーツ指導のあり方を明確に打ち出し、教員間の相互理解のもとに教育や運動部指導の中に具体的に位置付けていくことです。
今年、本学のあるクラブが全国大学選手権で優勝しました。決して高等学校時代、全国で活躍した選手が集まっているわけではありません。勝因の一つに、教員間の連携のもとで最新の体力科学とスポーツ心理学の理論を導入し、体力とメンタルの強化を図ったことがあります。心理面の強化に体罰はいらないのです。スポーツ科学とスポーツ指導の効果的な連携モデルを構築し、実践し、結果を出すことで、学生たちの意識を変え、スポーツ指導者の意識を変えていく。それが体育・スポーツの指導者養成に携わる私たち教育者の大きな役割と決意しています。 スポーツを通して健全な青少年教育を進めてきたYMCAとも協働し、成功モデルを広く提示していきたいと願います。

<永吉 宏英氏プロフィール>
大阪体育大学学長 日本野外教育学会副会長 健康大阪21推進府民会議会長



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